大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和26年(オ)633号 判決 1953年9月18日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由第一、二点について

立木に関する法律(明治四二年法律二二号)の適用を受けない立木については、土地に生立したまま立木だけを買受けた者はその所有権取得につき明認方法を施さなければこれを以て第三者に対抗し得ないこと並びに右対抗をなし得ない第三者の範囲を定めるについては民法一七七条の規定に準じて判断すべきことは夙に大審院の判例とするところ(大審院大正八年(オ)五六号同年五月二六日判決、大正九年(オ)第三八号同年二月一九日判決参照)であつて、当裁判所も右とその見解を同じくするものである。而して原審の確定した事実によれば、上告人は昭和二二年一月三〇日訴外亡真井彦馬から本件立木(右立木が前記立木に関する法律の適用を受けないものであることは原判文上明白である)を、土地に生立したまま買受けその所有権を取得したけれども、これにつきなんら明認方法を施さなかつたというのであるから、上告人の右立木所有権の取得は、これを以て右明認方法の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に対抗し得ないことはいうまでもない。ところで被上告人は右立木を昭和二一年一二月九日前記真井彦馬から買受けたことは、これ亦原審の適法に確定したところであるから(論旨は被上告人が右立木を買受けた事実を争つているけれども、所論はひつきよう原審の専権に属する証拠の取捨、事実の認定を非難するもので、適法な上告理由とならない)、被上告人は右売買と同時に本件立木の所有権を取得したものであるか、或は少くとも右立木の所有権を自己に移転させる債権を取得したものであることは明白である。而して被上告人が右立木の売買によりその所有権を取得したものであるとすれば勿論たとえ未だ所有権自体は取得するに至らないで、たゞ右立木の所有権を自己に移転させる単なる債権を取得したにすぎないものであるとしても、すでに被上告人がかかる権利を取得した以上、被上告人は右立木について、上告人の所有権の取得に対し明認方法の欠缺を主張すべき正当な利益を有する第三者に該当するものというのが相当である。されば上告人が本件立木の所有権の取得を以て被上告人に対抗し得ることを前提とする上告人の本訴請求は失当であることが明白であつて、原判決がこれを排斥したのは当然である。論旨は以上と異なる独自の見解であつて採用し難い。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例